[16487] 妻を抱く者。 鹿馬◆qRhyjQ 投稿日:2007/01/13 (土) 18:37
「言いにくい事なんだけど・・・・」
お向かいに住む奥さんが、俺が休日に一人で家に居ると、わざわざ訪ねてきてそう切り出した。
「あのね・・・・久美さん、浮気していると思うの・・・・」
「・・・・は? な・何ですか、唐突に・・・」
玄関先では・・・・と言う奥さんをリビングまで通した。
それから約1時間。
余計な主観を多分に含んだ、いわゆる憶測というモノが、俺の前で繰り広げられた。
要約すれば1行で済む。
俺の留守中に、どう見ても妻の久美より年下の男が、頻繁に我家に出入りしている。
ただ、それだけのことだった。
久美もバカではない。
自宅の目の前に、『噂話大好きなおせっかいばばぁ』が住んでいるのを承知の上で、
堂々と自宅へ愛人を連れ込むわけがない。
半ば強引にご帰宅していただいた。
この奥さんを家へ上げたことが久美に知られた方が厄介だ。
「ちゃんと確認しないと、大変な事になるわよ。悪い事いわないから、ね。」
ドアを閉める際、大きな声で奥さんは言った。
近所に聞こえるじゃねぇか。勘弁してくれよ。
言われなくたって確認するさ。
その日の夜、晩飯を久美と向き合って食べながら、聞いてみた。
「もぅ・・・うるさいわね、あのオバちゃん。智美の弟だよ。今度拓ちゃんにも紹介するね」
智美(さとみ)とは久美の大学時代からの友達。近所の実家に旦那をマスオさんとして住んでいる。卓ちゃんとは俺。
智美夫妻とは面識があるが、弟がいたとは知らなかった。
「高校からアメリカに行ってて、大学卒業して帰ってきたばかりなの。2ヶ月くらい前かなぁ・・・」
ほんの少しだけ持っていた疑いも、久美のいつも通りの口調・態度と、相手が智美の弟という事で、いつの間にか消えていた。
肝心の『なぜその弟を家へ上げているのか』を聞かずに。
妻から紹介されたその若者は、美人な智美とは全く似ていないブ男であったが、
アメリカ風の彼のテンションは俺とは波長が合った。
俺が帰宅するとリビングに堂々といて、
「卓さん、待ってたんすよ!よかった早く帰ってきてくれて~」と、
そのまま深夜まで酒を飲み、泊まっていく事も多々あった。
彼の正体に俺が気づいた時、妻は完全に彼のものだった。
いや、彼が俺の前に現れた時には、もう手遅れだったのだろう。
俺は、我家から追い出されるように、妻と別れた。
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